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1999/12の湾岸署

[1999年12月31日(金)]

「今年は一緒に年越しね」
すみれがニコニコしながら青島を突つく。
「そうだねぇ。今年も一年早かったねぇ」
青島はタバコを深く吸い込んでしみじみしている。
「年越しと言えばやっぱりおそばよねぇ」
「すみれさん、今年も食べ物のことばっかだったね」
「あったり前でしょ。食べずして人間は生きられないんだから」
まだ半分も吸っていないタバコを灰皿に押しつける青島。
「うちはねぇ、いつもそばじゃなくてラーメンだったんだよね。親父がそば嫌いでさぁ」
「へー、変わってるわね」
「今夜、作ったげようか。一人分も二人分も変わらないからね」
「ほんと?わーいっ」
ほんとにニコニコするすみれ。
すると
「三人分もかわんねーだろうから、おれのもよろしくな」
と和久がひょっこり顔を出す。
「じゃあ四人分ー!」
と、はるか向こうから叫ぶ真下。
「なんであんなとこで聞こえてるんだ、あいつ」
と振り返った青島は他の皆が自分のことを見ていることに気付き、頭の中のレシピにある材料の量をまた増やすのだった。

[1999年12月30日(木)]

「2000年の子供が欲しかったの」
とニコニコしている岸本婦警のおなかには二人目の子供が出来たとのこと。
来年になったら産休に入ると聞き、青島と真下は顔を見合わせて、
「と、いうことはまた桑野さんが・・・」
とドキドキしている。

[1999年12月29日(水)]

補導した女子中学生から「おじさん」と言われた青島が、ガックリ肩を落としている。
父親から「まだまだお前も若いな」と言われた真下が、その隣で肩を落としている。
「何やってんだお前ら。バカジジイとか言われてもおれは平気だったぞ」
等と慰めなのかなんなのか分からない言葉をかける和久は、まだ残されていた女の子達から
「エロジジイー!」
と言われて、やはりその隣で肩を落とすのだった。
「なにやってんの。うちの男どもは」
と、すみれ。

[1999年12月28日(火)]

「おー、今年も来たのか。」
和久が少し複雑な表情で、しかし一応笑って見せながら言う。
「また宜しくお願いしますぅ。」
何人もの浮浪者たちが何か期待した顔をしながらヨロヨロと立っている。
「まったくしょうがねぇなぁ。で、罪状はなんだ」
「全員、ネコババだそうです。お金を拾ったけど届けなかったから捕まえてくれって」
困った顔で答える森下。
「んー、今年は留置所が空いてねーんだよ。全員一つの部屋になるけどいいか?」
「さすが和久さんだ。お世話になりますぅ」
などと口々に言ってお辞儀をする一同。
森下に連れられてトボトボ歩く連中を見送りながら
「こんなご時世だからなぁ・・」とつぶやく和久の横を緑のコート。
「お、青島。連中の調書取っといてくれや。ネコババだってよ」
「あ、はい。でもそれで自分から警察に来たならネコババじゃないんじゃ・・・」
と言いかけるのを制して
「かてーこと言うなよ。拾った金使っちまったから、ネコババなんだよ。あとよ、三日過ぎたら出てってもらえ」
「はーい」
という青島の返事を聞きながら、和久は自分の指導員章を見つめた。

[1999年12月27日(月)]

例年通り入り口のクリスマスツリーが撤去されると代わりに門松が立つことになっていたが、今年は手違いで門松の到着が遅くなり本日の設置となった。
業者のリストラで作業員が足りないということで、緒方・森下・青島が手伝うことになった。
「なんで俺達がこんなことしなきゃいけないんでしょうねぇ」
頭にタオルを巻いて気合いの入っているはずの緒方がこぼす。
青島は抜け落ちそうな竹の筒を支えながら
「まったくだよなぁ。こんな仕事があるなんて習わなかったけどなぁ」
「じゃあどんな仕事があるって習ったんですか?」
あまり力仕事の得意でない森下が門松の底を持つ手に力を入れながら訊く。
「犯人捕まえたりカツ丼食ったり・・・」
思い出すように答える青島。
「どこで習ったんですか」
「太陽にほえろ」
一瞬後、どちらともなく
「よくそれで刑事になれましたね・・・」

[1999年12月26日(日)](by 千南晶)

クリスマスが過ぎるとなぜかあわただしくなる。
湾岸署も例外ではなく、事件もそれに合わせるかのように増えていく。
刑事課はまるで戦場のようだ。
しかしこの署内で最も戦場と呼ぶにふさわしいのは、クリスマスの飾り付けを山のように施された署長室であるのは言うまでもない。

[1999年12月25日(土)](by 千南晶)

魚住差し入れのケーキを頬ばる人の輪の中に、青島の姿はない。
青島はひとり、休憩室でコーヒーを飲んでいる。
そこへひょっこり、すみれが現れた。
「なにしてるの」
「・・・見りゃわかるでしょ、コーヒー飲んでる」
「クリスマスなのに仕事なんてねぇ・・・」
「刑事にクリスマスは無いよ」
「・・・そうね」
すみれは青島の目の前に立った。
「はい、これ」
差し出されたすみれの手には、先ほどの差し入れのケーキが一切れ。
「魚住さんから。一緒に食べよ。いくら刑事にクリスマスは無いって言っても、一人のクリスマスなんて寂しいじゃない」
甘いものが少し苦手な青島だったが、このケーキだけは格別な味がした。

[1999年12月24日(金)](by 千南晶)

警察にクリスマスなど無い。
今夜も、皆いつも通り仕事をしている。
夜が深まっても書類書きで帰れないすみれ。人知れずため息をつく。
「すみれさん、お先」
そう声をかけたのは、魚住。
「あ、お疲れさまでした」
家に帰れば美人な奥さんと可愛い子ども達が待っている。魚住の顔が緩んでいる。
すみれが机に視線を戻すと、そこには一枚のメモ。筆跡は魚住のもの。
『私の机の上のケーキ、みんなで食べて』
魚住の机の上には大きなクリスマスケーキの箱が乗っていた。
よく見回すと、残ってるのは独り者ばかり・・・。
賑やかなクリスマスイブを送ることが出来る魚住の、みんなへの心遣いだった。
「これでキャリアだったら、最高なのになぁ・・・」
と、すみれの何度か目の台詞。
ありがたくみんなでケーキをいただいた。

[1999年12月23日(木)](by まゆっち)

すみれと雪乃あてに封書が届いた。
先日「プチ家出」をして湾岸署に保護され、半日近く二人が相手をした小学生の親からだった。
雪乃宛はホテルのディナー券だったが、すみれ宛のものは、焼肉屋の食べ放題チケットだった。
受け取って良いものか返すべきか悩んでいる雪乃の後ろで、
「あっのガキぃ〜、なんなのよ、この差は」
とすみれが怒っている。

反省の色も不安そうな顔もないその小学生に
「おねえさんたち、お休みの日は何してるんですかあ?」
と聞かれて、二人揃って、
「食べ歩きかなあ」
と答えたことからこのお礼が選ばれたに違いなかった。

課長も署長も、
「いいじゃない、気持ちなんだから」
すみれのやや後方では真下が、
「返したほうがいいですよ。代わりに僕がディナーごちそうしますから。」
といった台詞の練習している。
その後方では青島が、
「今日の夕食は焼肉かぁ。や、フレンチもたまには・・・」
とあごをなでながら自分勝手に考えていた。

[1999年12月22日(水)]

雪乃と夏美がクリスマスプレゼントを買いに行くと聞いて、誰に向けての物なのか真下はひじょうに気になっている。
「ほんとは桑野さんのなのにね」
と二人はクスクス笑いながら出ていったのだが、真下にはその笑い声さえ別な風に聞こえるらしい。
「僕の胃薬、飲むかい?」
と魚住に言われて、ありがたく飲むのであった。

[1999年12月21日(火)]

「あれ〜?」
「おぼっちゃんどうしたんだ?」
床を這う真下を見下ろしている和久。
「はんこがね、なくなっちゃったんですよ。おっかしいなぁ」
机の下で唸っている。
「お、なんかあの仰々しいやつか。お前らしくないんだよ」
「そんなこと言われたって、高かったんですよ。もう」
「だから不釣り合いだって言うの」
お茶をすする和久。
その向こうから鼻歌混じりに袴田が
「真下君借りたよ〜」
と真下の印鑑を机に返す。
それに気付かずまだ潜っている真下。
和久はニヤッと笑いながら、まだしばらくは黙っておくことに決めた。

[1999年12月20日(月)](by 千南晶)

「秋山くぅん、なんか、部屋、狭くなってない???」
「そうですか?今年はたくさん飾り付けましたからねぇ」
神田と秋山は署長室を見回す。相変わらず大量のクリスマスの飾りが部屋を埋め尽くしている。
「ねぇ、ここにこのツリーあったっけ?これ、二階の刑事課に置かなかったっけ?」
「・・・ですね」
取調室のツリーをすみれが真下に運ばせた場所は、他でもない署長室だった。
「ますます豪華になったよねぇ・・・」と、神田は嬉しそう。
「おっしゃるとおりで!ウヒヒヒヒ!!」

[1999年12月19日(日)]

「そろそろしびれが切れる頃じゃねーかな」
和久が助手席であくびと一緒に言う。
「何がですか?」
今日の運転手は真下である。
「いや、雪乃さんよ」
「雪乃さん?」
「交通課にかり出されてんだろ?」
「シートベルト着用キャンペーンしてるって」
雪乃情報は余すところなく集めている真下。
「青島みてーなとこあっからよ。そろそろ事件に飢えてくる頃じゃねーかと思ってよ」
「あ、来ましたよ」
連続車上狙いを張り込みしていたのだ。
別の車で乗りつけた男が、別の車のドアをこじ開けようとしている。
「あ、バカ」
と和久は思ったが、遅かった。
真下がアクセルを踏み込んだのだ。
「おめー、早すぎるよ!」
帽子を押さえながら真下を怒鳴る和久。
「すいませんっ、つい!」
と真下は謝るが、男の方も気配を察したか自分の車に戻って、急発進する。
真下はサイレン灯を車の頭に乗せて、それを追った。
しばらくすると大通りに出たが、その時和久はバックミラーにミニパトが映っていることに気が付いた。
振り向くとすごい形相で前方をにらみつけて運転している雪乃の姿。
「あー、やっぱり・・・」
和久はそれを予測済みだったかのように、呟いた。

[1999年12月18日(土)]

歳末の交通安全キャンペーンで忙しい交通課に雪乃がかり出されることになった。
「おっ、久々のミニスカポリスだねぇ」
「なんか目がやらしい、青島さん」
と笑いながら手に持っていた制帽を頭に載せて
「これで完成っ。じゃ行ってきます」
交通課に小走りで行く雪乃を見送る青島と真下。
「やっぱかっこいいですよねぇ」
「なーにデレデレしてんの、ほらいくよ」
あきれる青島。
「私服の雪乃さんもいいけど、制服の方がやっぱいいよなぁ」
と真下は、何を想像してるのか妙な身振りをしながらいつまでもブツブツ言っていた。

[1999年12月17日(金)]

いつものごとく青島のデスクの上の灰皿は吸い殻でいっぱいだが、その横にはいつものマッチの代わりに真新しい凝った作りのミニ拳銃型ライターが置いてあることに、真下が今日気付いた。
それを使って美味しそうにたばこを吸う青島を見るすみれが、妙に嬉しそうに微笑むということを、雪乃は昨日から知っていた。

[1999年12月16日(木)]

「お前最近合コン行った?」
「いーや、さっぱり。お前は?」
「・・・・・」
「なんだよその顔。あ、お前さては・・。なんでオレを呼ばなかったんだよ!」
「だって女の子少なかったしさぁ」
「で、誰だよ相手は。婦警?」
「ぶー」
「あ、スッチーだろ」
「ぶぶー」
「誰だよ、言えよ!」
「・・・・教師。むふ」
「くーっ!女教師かぁ!歳はいくつだ?」
「二十・・三とか言ってたかな?一人は二十二だったっけ」
「うわっ。美味しそう!」
「だろだろ?」
「で、どうだったんだよ、結果は」
「それがさ、聞いてくれよ」
「お前ら、刑事になるの、もうちっと先ね」
「はっ、ご苦労様です!」「ご、ご苦労様です」
「ご苦労様じゃないよ、ったく。昼間っから署の入り口の立ち番が喋るような話じゃないだろっ」
「はっ!」「はっ!」
「敬礼ばかりしてりゃいいってもんじゃないだろ、君たち。署長がお出かけだ。車まわして」
「はい、じゃあ私がっ」「いや、この私がっ」
「どっちでもいいから早く!」
「はっ!」「はっ!」
「まったく、うちの署の連中はどうなってるんだろうねぇ。この年末の忙しいときに」
「いや、そういう署長こそ、背中にしょってるのは・・」
「こら、袴田!」
「あ、いや・・これは接待じゃないか。重要なことだよ、ほんと」
「ですよね」
「あ、あれ青島達じゃないですか?か、隠れましょ」
「どっどうして僕が隠れなきゃいけないの」
「みんなピリピリしてるんですよ忙しくて。そんな時にそんな恰好見せたらどれだけ非難されることか」
「あ、そうか。じゃ隠れよ。秋山くん、バッグ持って」
「はいっ!」
「あれ?」
「どうした」
「ここに今署長たちいませんでした?」
「いたか?おらぁ、見なかったなぁ」
「いや、なんかゴルフバッグ持って」
「このくそ忙しい時期にか」
「そうですよねぇ、こんな時にゴルフやってたら顰蹙ですよね」
「ほら、また次の仕事が待ってんだ、いくぞ」
「はいはい」
「返事は一回でよろしい」
「はいーーーーっ」
「なにムキになってんだ」
「いえ、別に。行きましょ」
「おう」

[1999年12月15日(水)]

いつもと同じ湾岸署。
いつもと同じ刑事課。
いつものように事件が起こり、いつものように青島と真下が現場に向かおうとすると
「おはよ」
いつものようにちょっと眠そうなすみれ。
「昨日休みだったんでしょ?それも連休で。遊びすぎたんじゃないですか?」
と真下が茶化す。
手に持っていた鞄でポンと真下の腰のあたりを軽く叩いた後で
「青島くん青島くん、ちょっと」
と柱の陰に引っ張るすみれ。
「なに?」
と現場へ行く時間を少し気にしながら青島がきくと
「はい、これ」
何やら小さな箱を渡す。
「へ?」
目をまん丸くする青島に
「誕生日だったでしょ。ちょっと遅くなったけど、プレゼント。今日もお仕事、頑張ってね」
ニコッと微笑んだあと、背中を押すすみれ。
「せんぱーい、行きますよぉ」
の真下の声と被るように言った青島の
「じゃあ、いってきまーす」
は、いつもより少し、元気がよかった。

[1999年12月12日(土)]

「よ、青島。ちょっとこれ、運んでくんねーか」
青島が書類書きしているとポンと和久に背中を叩かれた。
指さす先を見ると、観葉植物。
「なんすか、これ」
椅子から腰を上げながら尋ねると
「交通課のところに置いてあったんですけどぉ、陽当たりがよくないからか元気なくて。ね。」
と、圭子と妙子が二人で頷き合いながら答える。
「ここまでやっと引きずってきたけど、腰痛くってよぉ」
と横腹をトントンと拳で叩きながら和久。
「和久さん、無理しちゃダメっすよ。で、どこ持ってくの?」
Yシャツの腕をまくりながら訊くと、三人揃って天井を指さす。
「う、上?署長室!?」
青島が声をあげると、ちょうど通りかかったのが真下。
「あそこ、陽当たりいい上にデッドスペースだらけですからねぇ」
「お、いいところに来たなぁ、おぼっちゃん」
しまったという表情の真下。

「よし、いくぞ。いちにのさんっ」
青島の掛け声で、鉢を持ち上げる。
「お、重いっ」
青島が全身に力を入れたまま唸る。
「先輩、そこ階段ですよ」
「おぅ」
と後ろ向きになっていた青島が、ドンッ。何かにぶつかる。
思わず鉢を落としてしまう。
「あ、すいませ・・・あ!」
振り向きながら、声を上げる青島。
「あ、すまない」
短いがハッキリとした声。
「むむむ、室井さん!」
真下が叫ぶ。
室井がちょうど階段を降りてきたところだった。何故か上の方を向いていて青島達に気付かなかったらしい。
「あ、今日はどうしたんすか?」
青島が尋ねると
「いや、ちょっとな」
そこへ緒方がドタドタとやってきて敬礼。
「室井さん、お車の用意が出来ましたっ」
室井はぶつかった拍子に落とした黒い鞄を拾い、
「じゃ、また来る」
と青島達とすれ違うと、後ろの和久から何やら声をかけられ二言三言話した後、いつもの直立姿勢で去っていった。
「こんなところ見られたら暇なのかと思われちゃいますねぇ」
真下がバツ悪そうに言うと
「いや、そんな人じゃないよ室井さんは。よし行くぞ」」
と、また鉢を抱える青島。
その横を何やら叫びながら走っていく署長達三人。

※これはザッピングして室井側からの描写もありましたが、掲載サイトがなくなったため閲覧出来ません

[1999年12月10日(金)]

すみれがニコニコしている。
「どしたの。嬉しそうな顔して」
青島が訊ねる。
「今日はねぇ、和久さんとデートなの」
肩をすくめて喉を鳴らして笑うすみれ。
「お前のせいだぞ」
と和久にポンと叩かれる。
「は?」
何のことか分からない青島。
「お前がこないだ休みんとき忙しくてよー。すみれさんに応援頼んだんだよ」
「晩ご飯奢って貰う約束でね、でも忙しくて時間なかったから今日にしたの」
知らない間にグルメ雑誌を抱えている。
「いいっすねぇ。オレにも奢って下さいよ」
「やなこった」
和久は舌を出しながらブツブツ言って休憩室へ消えるのだった。

[1999年12月09日(木)]

「あれ、なんだか元気ないわねぇ」
雪乃が交通課の前の観葉植物を見てつぶやく。
「陽当たりが悪いからでしょうかねぇ」
と圭子。
「ちゃんとお水もあげてるんですけどぉ」
と妙子。
ちょうどそこに和久が通りかかる。それを見つけた雪乃が
「和久さん、この木、元気ないんですけど・・」
「そんなもん、陽の当たるとこに置いときゃスッと元気になるってんだ」
「どこがいいですかねぇ」と雪乃。
「悪いけど忙しいんだ」と和久はどこかへ行ってしまった。
「いいところ見つけておきますよ」と圭子と妙子はニッコリ笑うのだった。

[1999年12月08日(水)]

「どうして私なのよ!」
まだ書き込んでいない書類を山積みにしたすみれが怒っている。
「青島くんに行かせればいいでしょ!」
「青島くん休みなんだよ、すみれくーん、手伝ってよ」
袴田が弱々しく右手を縦に伸ばしながら、お願いする。
「わたしもこんなに書類溜まってるんですっ。もう!青島くんいないといっつもこう!」
ヒステリックに叫びながらうつぶせになり書類の山に頭を埋めるすみれ。
「すみれさん、頼むよ。晩飯奢るからよ」
出掛け支度をしながら和久が声をかけると、すみれはスクッと立ち上がりニヤーッと
「何奢ってくれるぅ?」
と言いながら、マフラーを首に巻きはじめた。
「あれじゃまるで犬だな」
と魚住は忙しく書類にペンを走らせながら呟いた。

[1999年12月07日(火)]

「うわぁ!」
コーヒー片手に窓の外を眺めていた魚住が、乱暴にコーヒーをデスクの上に置くとエレベータの到着も待てない程の勢いで飛び出ていった。
「なんだ、ありゃ」
和久が眉をひそめながら青島に聞くが
「さぁ・・・」首を傾げる。
「先輩先輩、あれ、ほら」
真下がブラインド越しに下を覗いている。
和久と青島もひょいと顔を出してみる。
そこにはビル風のせいであろうか急な突風のお陰で、せっかくツリーに結びつけたトントゥ達がはずれてゴロゴロと前の道路を転がる姿と、それを中腰になって追いかけ回している魚住がいた。

[1999年12月06日(月)](by 千南晶)

「はぁ、間に合ったぁ・・・」
そう言ってヨロヨロと壁にもたれかかったのは、ツリーを運び終えた真下だった。
「新城さんに見つかったら、一体何言われるか・・・」
帰り際、廊下で顔を引きつらせながら立ち止まる新城。
その足元には、真下がツリーを片付けるときに落としていった、金色のオーナメントがひとつ転がっていた。

[1999年12月05日(日)](by 千南晶)

青島がせっせと廊下の窓拭きをしている。
そこへ、何の用事か、新城が通りかかった。
「なんだ。仕事もしないで窓拭きか。湾岸署はもう大掃除の時期なのか」
相変わらずである。
「あ、えーと、あの、ちょっと汚れがひどかったもので・・・」
モゴモゴと適当に言い訳をする青島。
しかしそういう青島の雑巾の下には、まだ拭ききれていない雪の結晶の形をした白いスプレーの跡が隠されていた。

[1999年12月04日(土)](by 千南晶)

「もう、本庁の人間に見つかったらどうするんですかっ」
ブツブツいいながら、真下が取調室のツリーを片付け始めた。
「どこに置きましょう?」
真下が通りがかりに青島に聞いたが、青島はウンザリした顔で「目に付かないところ」と、一言。
「目に付かないところったってなぁ・・・」
と、真下は困り顔。
するとすみれが「いいところがあるわよ」と、助け船を出した。

[1999年12月03日(金)](Thnx まゆっち)

吉田のおばあちゃんがいつもの桜交番にやってきた。なにやら困った顔をしている。
「こんにちは」
「どした?おばあちゃん」
もうすぐお昼休みのこの若い警官は、時計を見上げながら面倒そうに答えた。
「メガネがね、どっか行っちゃったんですよ。ここを通ってベンチで一休みして、孫に会いに行って、いま帰って来たんですけど。前に一度なくしたとき、ここで見つけてもらったことがあったものですからね。伺ったんですよ・・・」
全てを言い終えないうちに、警官はため息を一緒に答えた。
「おばあちゃん、おでこにかかってるのは何?うちがわかんなくなる前に、早く帰りなよ。それから今度からはうち出るときは住所書いた紙もって歩くようにするんだね」
「あらあら、まあ。どうもありがと」
お礼を言ってみたが、警官は向こうを向いて書類を片付けている。
「青島さんは、どうしてるかねえ」
吉田のおばあちゃんが、誰もいないベンチを眺めてそう呟いた丁度その時・・・。

「クシュンッ!」 キムチラーメンを食べていた青島の大きなくしゃみ。
「きったねえなあ、うつすなよ。年寄りにゃこの時期の風邪はこたえんだからな」
和久が肩を拭きながら怒っている。

何年か前、吉田のおばあちゃんがメガネをなくしたと言って交番に来たとき、さりげなくおでこに見つけたメガネを取って、
「おばあちゃん、もしかして、これ?よくやっちゃうんだよねぇ」
とニッコリ笑って自分のハンカチでそのメガネを拭きながら腰をかがめて渡してくれたその人は、まだそのベンチに座って笑いかけてくれているようだった。

[1999年12月02日(木)](by 千南晶)

「いやぁ、秋山くん。クリスマスだねぇ。どう、この部屋!いい感じにクリスマスの雰囲気を醸し出してるよねぇ」
「おっしゃるとおりで!!」
クリスマスの飾りですっかり覆い尽くされた署長室には、更にクリスマスソングを奏でるオルゴールまで置かれている。
オルゴールの音が止まるやいなや、秋山は慌てて走って行って、せっせとネジをまいている。

[1999年12月01日(水)]

電柱の陰で両手をこすり合わせている青島。
「ほらよ」
缶コーヒーを後ろから差し出す和久。
「あ、ごちそうさまです」
さっそく開けて、和久に渡す。
それと引き替えにもう一本和久が渡し、それを青島が開けるのを見届けて、二人同時に口を付ける。
「しかしホントに出るんすかねぇ」
両手で缶を包み込んで暖をとる青島。
「わかんねーから張り込んでんだろ」
ちょっと曇った空を見上げながらめんどくさそうに答える和久。
「何もこんな寒い日に裸でコート着なくてもいいのになぁ」
最近付近で痴漢が多発していて、その為の張り込みなのだ。
その時
「きゃあ!」すぐそこの角から聞こえてくる悲鳴。
「うっし」と気合いを入れた青島が、そばのゴミ箱に空き缶を投げ込み走り出ると、向こうに逃げ去る女子高生たちとコートを広げて追いかけている男が目に入った。
「あ・・」思わず立ち止まる青島。
「またかよ。それ、流行ってんのか」
青島のコートを上下に睨む和久。
「オレのせいじゃないっすよ」と青島は半ば怒りながら、痴漢男を追いかけた。

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