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1999/11の湾岸署

[1999年11月30日(火)]

いつものように青島が出勤すると、入り口前の巨大ツリーに脚立に載ってなにやらゴソゴソやっている魚住を発見。
「なにやってんすか」
タバコをもういっぱいになりかけた携帯灰皿に押し込みながら訊く。
青島が最後に吐いたタバコの煙を片手で掻き消しながら
「いや、アンジェラが持ってけってさ、うるさいんだよね」と魚住。
真っ赤な小人をツリーにくくりつけている。
「すごいっすねぇ。これ全部付けたんすか?」 ツリーをぐるりと50体以上はいるであろう。小人たちが揺れている。
「トントゥだよ。僕の机の上にもあるだろう。フィンランドの守り神なんだ」
「へー。よく分かんないけど大変っすねぇ」
鼻の頭を親指で掻きながら、聞いている。
「そうなんだよ。'ちゃんと付けたか見に行くからね'とか言うからさぁ」
魚住が脚立から降りてくる。
「尻に敷かれてるんすね」
と鋭いことを言い残して、玄関の森下に挨拶をして入っていく青島。
魚住はややショボンとしながら折り畳んだ脚立を持って、それに続いた。

[1999年11月29日(月)](by 千南晶)

すみれと雪乃が、婦警達と何やらコソコソと話をしている。
それを見た青島は、どうしたの、と声をかけた。
「あら、いいところに来てくれたわ、青島くん」
そう言ってにっこりと微笑んだのは、すみれ。
その微笑みに青島は何かを感じたらしく、一瞬頬が引きつるが、すみれは気付かない。
「出るらしいの」
「え、な、何が・・・?」
更に頬を引きつらせる青島。逃げ腰になる青島の腕を掴んで離さないすみれ。
「もちろん、ユ・ウ・レ・イ」
すみれは署内に常備してある懐中電灯を持ち出し、赤いランプだけを点灯して顔を照らす。
「やだなぁ、いるわけないっしょ、幽霊なんて」
「でも私、聞いたんです!誰もいないはずの署長室からオルゴールの音が途切れることなく延々と署内に響き渡るのを・・・」
圭子は本気で怯えている。
「・・・う、うそ・・・」
「青島くん、今晩当直よね。ヨロシクね」
「よ、ヨロシクって、何が・・・」
本格的に逃げようとする青島の両腕を掴んで離さない、すみれと雪乃。
「青島さん、幽霊の正体、突き止めてください!」
実はその手の話はとっても苦手な青島は、ほとんど半泣き状態だったことは言うまでもない。

[1999年11月28日(日)](by 千南晶)

広場でナイフを振り回していた男を、青島が気怠そうに取り調べている。
「名前と住所と年齢は?なんであんな事したの。ナイフは振り回すもんじゃないでしょ」
「・・・」
男は青島の右後方の部屋の隅をじっと見つめたまま、答えようとしない。
「・・名前と住所」
「・・・」
「・・なんか、緊張感に欠けるよね」
そう言って青島は頭を掻きながら、男の見つめているソレを恨めしそうに睨む。
ソレには、頭頂に金色の星飾りが付き、金銀のモールが巻かれ、そして更には点滅する色とりどりの電球が巻き付けられている。
青島はソレを眺めながら大きなため息をついてつぶやいた。
「誰だよ、取調室にクリスマスツリーなんか置いたの・・・・」

[1999年11月27日(土)]

すみれが旅行から帰ってきて随分になるが、今頃になって
「はい、青島くんにお土産っ」
と何やら詰まった箱を青島のデスクに置く。
帰ってきてからすみれの机に飾られるようになった、海岸で知らない男と二人で映っている写真立てをチロッと見ながら
「あ、ありがとう」と受け取る青島。
「荷物が多かったから別便で送ったら随分遅れちゃったの」
眉間に薄い皺を寄せながら説明するすみれ。
「開けてみてよ」
座っている青島の肩の上からニコニコ覗き込む。
「う、うん」
何か言いかけようとしたが、とりあえず開けることに決めた青島。
「わぁ、すげぇ!」
一目見た途端に青島が満面の笑みに。
「凄いでしょ。'ハワイならチョコレートでしょ。で、拳銃が好きならこれしかないでしょ'ってね、弟が言うからこれにしたの」
中身は実物大の拳銃型チョコレート。
「なんだかハワイっぽくはないねぇ」
青島の感嘆の声を聞いて寄ってきた魚住が腕組みをして言う。
その横で真下が、
「ハワイ行ってたんですかぁ」
雪乃は手にした写真立てを圭子と一緒に覗き込んで納得している。
「弟さんなんですね、これ。そういえば目のあたりが似てるわ」
「弟がね、結婚が決まったっていうから、お祝いを兼ねて旅行に行ってきたのよ。ほら結婚すると自由効かないじゃない」
とその後ろからみんなに配るマカデミアンナッツを抱えて説明するすみれ。
チョコ銃を舐めまわすように見ている青島はまだ最大級の笑みを浮かべていたが、その笑みの理由はチョコのせいだけではないと、真下は思った。

[1999年11月19日(金)]

青島は、コートを着てるのはまだ自分だけだということに、今日やっと気付いた。

[1999年11月18日(木)]

他の課の仕事を知ろうという署長の思いつきで、刑事課全員でパトカーを洗うことになった。
「こんなことで交通課の仕事が分かんの?」
という青島を筆頭にみんなブツブツ言いながら、パトカーに冷たい水をかけるのだった。

[1999年11月17日(水)]

真下愛用パソコンの壁紙が雪乃だということを、雪乃はまだ知らない。

[1999年11月16日(火)]

すみれが明日から三日間有給をとる申請をした。
真下に「先輩、どこ行くか聞いてあげましょうか」などとからかわれている青島。
「青島さんが気になるのは、どこへ行くかじゃなくて誰と行くかですよね」と雪乃にまで言われている。
青島は気にしてないようだが、和久によれば「かなり無理してるぞ、あいつ」ということらしい。

[1999年11月15日(月)]

青島がまたモデルガンを衝動買いしてしまい、財布の中を見て嘆いている。
その横で旅行のチケットを持って同じく中身が空の財布を見ているすみれだが、こちらは青島と違ってニコニコしている。

[1999年11月14日(日)]

すみれの読んでいる雑誌が知らない間にグルメ雑誌から旅行雑誌に変わっていた。
それに気が付いた青島と真下は、すみれが誰と行こうとしているのか、大いに気になっている。

[1999年11月13日(土)]

何かと病院へ行ったり入ったりする事の多い青島だが、実は大の医者嫌いで苦い薬にたいそう弱いということを、すみれだけが知っている。

[1999年11月12日(金)]

何かの事件で真下と和久と青島で現場に向かう。
勝鬨署との境だったので和久はイヤな予感がしていたが、事が終わってさぁ帰ろうかというところで、何故か自転車でキコキコやってくる勝鬨署の刑事たちに遭遇。
自転車から降りてきた彼らとしばらくにらみ合いになったが、青島も真下もにっこり笑って踵を返す。
その態度にカチンときたのか、後ろから罵声の嵐。
先日の野球大会をまだ根に持っているのか真下の悪口も多いが、どちらも飄々としている。
「お前ら大人になったなぁ」和久が感心して言う。
「大人になったでしょ」と青島がちょっと偉そうにすると、後ろから「ギャア!」という悲鳴。
「サ、サドルが〜!」と叫んでいる。
「子供たちが椅子引っこ抜いて持ってくのが見えたんですよ。ありゃ捕まえるの大変だろうなぁ。あはは」
真下も青島も堪えきれずに笑い出す。
「んー・・・」和久は難しい顔をちょっとしたが、振り返って慌てる勝鬨署員を見ると、ニヤッと笑った。

[1999年11月11日(木)]

「副署長って、思い切り中間管理職って感じするよね」
暇そうに座っていた青島が床を蹴ってすみれに話しかける。
「なによ突然に」
「いや、立場的には課長の方が中間管理職なはずだけど、ほらあれ」
指さした向こうには、のんきにゴルフの素振りをしている袴田。
「そうねぇ。署長のヨイショばかりでストレスいっぱいかもねぇ」
またグルメ雑誌に目を落としながら大して興味なさそうなすみれ。
「いや、毎日ストレス解消してるらしいですよ」
どこで話を聞いていたのか、真下が顔を出す。
「へぇ」青島。
「いやね、こないだ副署長の息子さんに聞いたんですけど」
妙に顔の広い真下。
「夜中に薄暗〜いところで、テレビに映った魚になにやら話しかけてるんですって」
「・・・・・」
遠くから「イヒヒヒヒ!」という副署長のいつもの笑い声が響き聞こえたが、その時一同にはそれが暗く怪しげな雄叫びに聞こえた。

[1999年11月10日(水)]

「よ、真下。今日交通課と飲み会あるんだけど」
朝から夜の約束をしようとしている青島。
「行きます行きます。絶対行きます」
眼をウルウルさせる真下。
「緒方君と森下君も誘っといてね」 と、言いながら青島自身はすみれに声を掛けに行った。
「先輩、えらく気合い入ってんなぁ。ウップン溜まってんのかなぁ」
向こうでは雪乃が交通課の面々を誘っているのが見え、
「ヨシッ」と真下も急に気合いが入ったのだった。


「先輩が企画しら飲み会がちゃんろ開催されるなんれ、珍しいっすれぇ」
と、ろれつのまわっていない真下が真っ赤な顔して青島に絡んでいる。
フフンと鼻を鳴らす青島。
テーブルには50人近く座っていて、今日が結婚記念日の中西係長と当直の武・魚住を除いて刑事課は全員いる。
「よくもまぁこんなに集めたものよねぇ」
すみれが空っぽのコップ片手に、やや青島の方に身体を傾けて、言う。
「ほら、最近なんだか良いことないじゃない。こんな時こそ騒ごうと思ってね」
と言った青島の語尾は、袴田の隠し芸を見ている暴力班達の歓声にかき消された。

賑やかな宴が続いたが、一人二人その辺に寝転がり始めた頃、青島と雪乃が目で合図して外へ出ていく。
しばらくして戻ってきた青島が
「みなさんっ!今日は圭子ちゃんの誕生日ですっ!おめでとうっ!」
後ろの雪乃は、両手いっぱいのかすみ草。
みんながワァッとどよめき、拍手もともなって祝福する。
「わぁっ、ありがとうございます。」
満面の笑みの圭子。みんなにぺこぺことお辞儀をしている。
「でもよくわたしの誕生日なんて知ってましたねぇ」
雪乃からかすみ草を受け取りながら、青島に感心して訊く圭子。
「いや、雪乃さんが教えてくれたんだよ。だったら盛大にやっちゃおうかって」
「ねっ」と雪乃が相づちのように微笑んだ。
「先輩もしゃれたこと・・・ウワッ!」
と、向こうで椅子から転げ落ちる真下。

交通課の女の子達からそれぞれプレゼントを貰ってキャアキャア言っている圭子を、遠くでカクテルグラス片手ににこやかに見ている青島。
「たまにはいいことするじゃない」すみれが肩で青島を突っつく。
「たまには、は余計でしょ」と言い返す青島も、やっぱり笑っていた。

[1999年11月09日(火)]

「はい、青島さん。スーツ出来ましたよ」
圭子がシワがつかないように両手で大事そうに抱えてスーツを持ってきた。
「あ、こないだの制服支給のやつだね。ありがと」
タバコをくわえたまま振り向く青島。
「!?」
何かを思い出した青島。サッと圭子からスーツを奪い取ると、机の上に広げてジッと見る。
「どうしたんですか?」圭子は後ろから不思議そうに見ている。
「やっぱり違う・・・でも・・・」
「センスいいでしょ」
すみれが覗き込んだ。
「青島くんの選んだ生地、ちょっとセンス悪かったから私が選んであげたの」
ちょっと得意気にしている。
「あ、ありがと。あの時よく分かんなくって適当に選んじゃったんだよね」
少し照れている青島。
「すみれさん優しい!」などと圭子は頬を赤らめながら感心している。
「着てみてくださいよ」という圭子の声に押されて青島が早速着ようとすると
「なんだこれ!!」
裏地は異常なほどに明るくテカテカしたパッションブルー。
「去年のは表地が真っ赤だったから、今年は裏地を青でまとめてみました」
と、すみれは圭子相手にデザイナー口調になっている。
「まとめてみました、じゃないよ!!」
青島が叫ぶのを、青島以外はみんな笑って見ていたのだった。

[1999年11月08日(月)](Thnx えびりょう)

圭子が階段から下りてくると、すみれが男性と腕を組んで歩いている。
男性は長身で緑のヨレヨレコートに、むさ苦しい髪の毛。
「すみれさん、署内でデートですかぁ?」
と圭子が声を掛けると、振り返る二人。片方は知らない男だ。
「あれッ? 青島さんじゃないんですかぁ。」
「当たり前でしょ。デートするならもっといい男とするわよ。すぐそこのおもちゃ屋で万引き。このモデルガン盗ったんですって」
と、すみれ。
そこに青島がコーヒー片手に通りかかる。
「あっ!」目が輝く青島。コーヒーすら落としそうになる。
「どうしたんですかぁ?青島さん」と圭子。
青島の視線は、すみれの手にしているモデルガンに釘付けらしい。
「欲しい?それと交換してあげよっか?」すみれがコーヒーを指す。
真面目な顔で悩む青島。
すみれが視線を被疑者に移して、その全身を舐めるように見る
「ったく、何の影響を受けたんだか・・・。」と小声で呟く。
「ハクション!!」自分のくしゃみでまたコーヒーを落としそうになる青島。
思わず顔を見合わせる すみれと圭子。

[1999年11月07日(日)]

袴田が
「今日のおやつは私のおごりだぞ。腹一杯食べろよ!」
と手に袋を持って、大きな声を上げている。
みんなが、特にすみれが、喜んで袴田に群がる。
「こんなに課長の人気が上がったことは、ないですね」
と腕組みしながら言う真下に頷く雪乃。
次の瞬間、はぁ、という溜め息と共に群衆も散る。
袴田の手にはレインボー最中が誰からももらわれずに丸々残っていた。
「こんなに人気が下がったことは、結構あったかもね」
真下と雪乃の間から顔を出す青島。

[1999年11月06日(土)](Thnx 室井3号)

湾岸署に子供達が訪れた。
例によって、日頃のお父さん達の仕事ぶりを知ってもらうためである。
刑事課はまたまた例によって緊迫したムードで、いかにも仕事しています、と言う雰囲気を盛り上げている。
「じゃあ今度はパトカーを見に行こう!」すみれの言葉に子供達が
「はーい」と元気良くついてくる。
そこへ階段を降りてくる署長と副署長。
「秋山くん、これ見てよ。いいでしょ。またインターネットで買っちゃった」
「いいですなぁ、コレ、ですね。早速行きましょうか。イヒヒヒ」
副署長がゴルフの素振りをしながら答える。
署長の手にはピカピカのゴルフクラブ。
「ヒヒヒヒ・・ヒ・・」副署長の笑い声が止まる。最後はやや悲鳴にも似ていた。
二人を不信感いっぱいの目で見つめる小さな瞳たち。
それをあきれ顔で見ていた和久が呟く。
「ダメだこりゃ」

[1999年11月05日(金)]

青島と真下がなにやらクスクスと話をしているところに、すみれ。
「何楽しそうに話してるのよ」
「すみれさんて、ヨーヨーできます?」
「は?」真下の不意の質問に思わず聞き返す。
「出来るわよ。近所のスーパーに来たヨーヨーチャンピオンに習いに行ったりしたんだから」
なら出来るね、と青島と真下は確認し合う。
「なんなのよぉ」
「いや、すみれさんにセーラー服着せてヨーヨー持たせてスケ番刑事なんてやらせたら似合うんじゃないかってね」と青島。
「でもすみれさんちっちゃいから、逆にやっつけられちゃいそうですねぇ」真下はニヤニヤしている。
バンッ!手に持っていた資料を机の上に投げ出すすみれ。
「あのね、ヨーヨーなんてなくても私には必殺技があるのっ」
「なに?」男二人の声が合う。
すみれは腰に手を当てて、なぜか自慢げに
「サファイアキック」

[1999年11月04日(木)]

「どうかね、似合うかね、秋山くん」
「そりゃもうピッタリですよ、署長」
喪服を着た署長と、その隣で手を擦る副署長。
「若いのには喪服は似合わないからねぇ。なんていうの、中年の魅力ってやつ?」
胸を軽く叩いて誇らしげにしている署長。
「そうですな。イッヒッヒッヒ」
「相変わらず気持ち悪いねぇ、君は。えー、運転は青島君だっけ?」
階段を下りていると下から圭子と多恵子の黄色い悲鳴が聞こえる。
「キャー!青島さんかっこいいっ!喪服似合いますねぇ!」
「だろう?やっぱり喪服はこう着こなさなきゃ」
なぜかポーズをとっている青島。
「圭子ちゃん、僕はどうかな」署長も負けじと同じポーズを取る。
「あ、ここ、クリーニング札付いてますよ」
圭子たち二人ともプイッと行ってしまった。
「車出してきます」青島。
「あっ、用事が・・・」副署長、立ち去る。
一人残された署長。クリーニング札を剥ぎながら、半ベソ。

[1999年11月03日(水)]

「最近警察署内での窃盗がまた流行っているらしい。昨日も勝鬨署内で交通課の女の子の下着が盗まれたとのことだ。みんなも気を付けるように」
珍しく署長が現れたと思ったらこんな注意を促している。
青島と真下と魚住と和久が揃って目を合わせる。
みんな眼孔が鋭い。
しかし頭の中では「なんで下着を盗まれるんだろう。下着を脱ぐ機会がどこにあるのだろう」と皆一様に考えていた。
それを見たすみれと雪乃。
「?」

[1999年11月02日(火)]

「おかしいなぁ・・」
警務課から戻ってきた青島。手には何やら紙を持っている。
「どうした」和久が肩を自分の片手で叩きながら、訊く。
「昨日出したはずの制服の申込書が机ん中に入ってたんすよ、ほら」
「出し忘れたんじゃねぇのか?」今度は首をコキコキ鳴らしている。
「そう思って警務課に出しに行ったら、オレのもちゃんと提出されててもう業者にまわってるんですって」
「ならいいじゃねーか」
「うーん。なんか気持ちを悪くって」
二人の後ろで、呑気にグルメ雑誌を読んでいるようにみえたすみれの眼孔が鋭く光るのを、二人は気付かなかった。

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