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2000/12の湾岸署

[2000年12月31日(日)]

「おい、そろそろはじめるぞぉ」
秋山が手を叩いて皆を呼んだ。
横では寿司屋の親父が機嫌良く次々と寿司を握っている。
「みんな揃ったかな?」
秋山が見渡すと
「青島君がまだでーす」
と後ろの方ですみれが手を挙げた。
「何やってるんだあいつはいっつも・・」
と秋山がブツブツ言っているとハンカチで手を拭きながら廊下を走ってくる青島。
「おぉ、旨そうな寿司っすねぇ」
と入ってくるなり言うが、秋山に睨まれて黙ってしまった。
「では、署長」
と合図をすると、横の神田が咳払いをして喋り出した。
「えーあー今年一年、みんなご苦労だった」
かしこまっている。
「今年もまぁいろいろあったが、全員大きなケガもなく不祥事もなくここまでこられたのは・・」
青島もすみれもどんどん数の増える寿司だけを凝視している。
「僕たち管理職の人間がしっかりしていたからだと自負している。ね、そうだよね、秋山くん」
と人差し指の背で指すと
「おっしゃる通りで・・」
と秋山。
「まぁそういうわけで無事この納会も迎えることが出来たわけだけど・・・」
そこまで言うと和久が口を挟む。
「んなどうでもいい能書きはいいから食べましょうや」
とめんどくさそうに言う。
「さんせーい」
と青島とすみれも両手を挙げて主張している。
「とりあえず、乾杯しましょ、署長」
と場を取り繕うように裏声を上げた袴田が紙コップを神田に手渡した。
「あ、そうね、そうだね」
と少し残念そうな神田。
全員にコップがまわったのを確認すると、自分のコップを宙に掲げた。
「残念ながら今年の都の交通事故者数は目標の9000人を超えてしまいましたが・・」
と続いたので、他の全員でゴホンと咳払いをした。
「うん、まぁそういうことでお疲れさま。乾杯」
「かんぱーい!」
途端に寿司に群がる刑事達。
「あ、僕の分も取っておいてよ」
群衆の後ろで慌てる神田だったが、その後ろから和久がつついた。
「心配しなくったって大丈夫だよ。好きなだけ食えらぁ」
と自分ものんきにお茶をすすっている。
「え?どうゆうこと?」
と訊いたのは、群衆をよそにいつの間にか寿司を皿に山盛りに積んで涼しそうに頬張っているすみれ。
群衆の中心にいる寿司屋の親父が
「さぁどんどん食ってくれ!」
と叫ぶと同時に、刑事課内の電話が一斉に鳴りだした。
慌てて散って電話に出る刑事達。青島あたりは電話の相手をしながらそれでも寿司をくわえている。
間もなくそれぞれが飛び出していくと、寿司屋の親父の周りには管理職しかいなくなっていた。
「ほらな」
笑う和久。
唸る神田。
「すごいねぇ。大晦日にこんなに働くなんて、警察っぽいよねぇ」
「警察ですよ」
一応小声で突っ込む袴田。
「とりあえず食べましょ!」
喜ぶ秋山の声を合図に、皆小皿片手に寿司を食べはじめるのだった。
「こっちはのんきなもんだなぁ」
と和久は呟きながら、自分もすみれの残していった寿司の皿から一つつまんで口に入れた。
しかし、その横の電話が鳴り出すのも間もなくであった。

[2000年12月30日(土)]

「はぁ、はぁ」
肩で息をしているのは青島。
「あ、お疲れぇ」
と言った魚住は受話器を肩で挟んだままである。
「どうしたの?」
どこからか走ってきたすみれが後ろから肩を叩く。
「いや、もう忙しくてあっち行ってこっち行って、死ぬぅ、はぁ」
息をつく青島。
「何言ってんの。みんなそうよ」
笑うすみれの後ろを魚住が慌ただしく走っていくのが見えた。
気付けば皆が走り回っている。
「そうだよ、いつの時代もこの時期の刑事は大忙しさ」
と和久がお茶を片手に立っていた。
「和久さんは暇そうっすね」
「こう見えても大忙しなんだよ」
と言うと同時に横の電話が鳴った。和久が取る。
適当に返事をすると受話器を押さえて青島に告げる。
「駅前の釣具屋で釣り竿強盗だ。客が犯人を取り押さえてるってよ。急げ」
「はいっ!」
再び青島は走って出ていくのだった。

[2000年12月28日(木)]

青島は両肘を付いてタバコをふかしている。
「あぁ、あと4日で21世紀なんすねぇ」
「あ?そうだなぁ」
書類書きをしていた和久は顔を上げて暦を見ながら返事をした。
「20世紀も21世紀も、俺達ゃなんにもかわんねーよ」
という和久を見つめる青島。
「なんてな」
和久は照れながら返した。
「まぁ実際なんにも変わんないっすよね」
青島はタバコをくわえてノビをした。
そこへやってきたすみれが青島のタバコをひょいと奪うと、笑いながら言った。
「変わるらしいわよ」
「何が?」
青島はタバコを奪い返して訊く。
「この部屋、禁煙になるって。副署長が言ってた」
「ごほっ」
むせた青島は椅子ごとひっくり返りそうになる。
「ま、まじすか?」
和久に訊く青島。
「さぁな。直接訊いて来いよ」
と天井を指さす和久。
「よっし」
とたばこを灰皿にもみ消すと、青島は走っていった。
「かわんないわね」
「かわんねーな」
すみれと和久は、同時にため息をついた。

[2000年12月26日(火)]

「寒いぃ!」
雪乃が叫びながら帰ってきてコートを脱いだ。
「あ、雪乃さんちょうどよかった。お茶煎れたのよ」
とすみれはカップを一つ差し出す。
あちあちと言いながら受け取りゆっくりすすると、机の上に広げられた包みに気が付いた。
「あ、これ?魚住さんのお土産よ」
と、すみれは視線を察して説明した。
いろいろな形のクッキーが缶の入れ物から溢れている。
「ほら、フィンランド土産だよ」
と魚住も自分の席でお茶をすすりながら応えた。
「あ、そっかぁ。いただきまあす」
というと一枚つまんで頬張った。
「おいしい!」
と言ったつもりらしかったが、口の中のクッキーでモゴモゴ言っている。
魚住はそれでも分かったのか、嬉しそうに微笑んでいる。
雪乃はお茶でクッキーを流し込んだあと、
「青島さんも真下さんもお休みで残念ですね。こんなに美味しいのに」
と呟いた。
するとすみれ。
「真下くんはともかく、青島くんはあんまり喜ばないわよ」
と、二枚重ねてクッキーをつまむ。
「どして?」
と訊く雪乃にすみれが答えた。
「青島くん、クッキーとか苦手なのよ。もそもそしたお菓子はダメなのね」
と笑った。
「へぇ、青島さんにも苦手なものあるんだぁ」
と意外そうな雪乃。
「あるわよ、いっぱい。おばさんにコギャルに子供に」
指折り数えるすみれ。
「あと新城さんもね」
と魚住が付け加え、一同笑い出すのだった。

[2000年12月25日(月)]

「あっ」
最初に気付いたのは夜勤明けの青島であった。
「おはよーございますー」
青島を見つけた笑顔が挨拶をした。
「美香先生!」
と驚いた青島は慌てて立って、一晩過ごしたシャツのシワを叩いて伸ばしながら挨拶をし返した後
「どうしたんすか?」
と尋ねた。
「金曜日で学校はお休みに入ったんですよ」
と美香は笑顔のまま言う。
「あ、そっか」
カレンダーを確認しながら頭を掻く青島。
「で?」
と青島の聞き返すのと同時に、美香が真っ赤な箱を差し出して言った。
「これ、作ってきたんです。お口に合うか分かりませんけど・・・」
青島はそれを受け取ると、
「あ、ありがとうございます」
と、辿々しくお礼を言った。
そっと開けてみると、中から出てきたのはクリスマスケーキであった。チョコで作ったサンタクロースも乗っている。
「わぁ!旨そう!」
青島は喜んで叫ぶ。
「青島さん今日夜勤だって聞いたんで、甘ーいの作りました」
と美香。
「さっすがー。クリスマスだってケーキもなくて寂しかったんすよねぇ」
と青島はニコニコしている。
「じゃコーヒー煎れてみんなで食べよう」
とコーヒーポットに向かう青島を
「いや、私が煎れますよ」
と美香が追いかけていった。
そのやり取りを背中で聞いていたすみれ。
「青島君のスケジュールはチェック済みなのね」
と独り言を呟いた。
「えっ?」
と隣の武に聞き返される。
「なんでもないわよ」
と不愛想に返したが、後ろから青島に
「すみれさんもどう?美味しそうだよ」
と声をかけられ、
「はーい!」
と笑顔で振り返るのだった。

[2000年12月22日(金)]

「なんだよ」
青島はブツブツ言いながらも真下についていく。その後ろにすみれと雪乃が続く。
「なによ、外出るの?もう日暮れてるんだから寒いわよ」
階段を降りる真下に向かってすみれが声を上げるが、真下は無視して降りていく。
「なんだか気合い入ってますね」
雪乃はすみれにボソッと呟いた。
受付に座る森下の目の前にさしかかった頃、急に真下が振り返る。驚く三人。
真下はいつもの大声で話し出した。
「実は僕は先日デジカメを買い換えました!」
両手を大きく広げている。
「なんだそりゃ」
「記念写真でも撮るの?」
真下は続ける。
「我らが湾岸署は経費節減が謳われています!」
手は握り拳に変わっている。
「話が繋がってねぇじゃん」
「なんなの?」
真下はキッと睨んで更に声を張り上げた。
「話は最後まで聞くのっ!」
お互い目を見合わせながら一応黙る三人。
「例年地域住民から愛されている我が署のクリスマスツリーも、そんなわけでとうとう今年は電飾なしになってしまいました」
真下が指し示した玄関先には大きなツリーが立っている。
「そこでです!」
真下はポケットに手を突っ込むと何かを引っ張り出した。
「じゃーん」
手に握られているのは電飾の束である。
「経費節減なんでしょ。電気はどうすんのよ」
それを見たすみれが突っ込んだが、真下は
「まぁまぁ、とりあえず付けてみて下さい」
と、三人に電飾の束を渡した。
言われるままツリーに電飾をつける三人。真下はいつの間にか脚立を持ってきて高いところの作業をする。
「よし、終わったぞ」
付け終わった三人が声をかけると、真下はニコニコしながら脚立から降りてきた。
「森下くーん、ちょっとそこの電気消してくれる?」
と受付で呆然としている森下に声をかけた。
間もなく玄関先の電気が落ち、薄暗くなった。
「いいですかぁ?スイッチオン!」
その瞬間、ツリーの電飾が順に点滅をはじめた。てっぺんの星も輝いている。
「わぁ!綺麗!」
すみれと雪乃は嬉しそうに叫んだ。
「おい、どうしたんだ。電気」
青島がつつくと真下は、ツリーの根元にある箱を指さした。
近づいて箱を開けると、大量の電池が入っている。
「前のデジカメは乾電池だったんですよ。消費が早いんで電池大量に買い込んだんですけど、買い換えた方のデジカメはバッテリー駆動でね」
後ろで真下が笑いながら頭を掻く。
「どうせ使わないならツリーに使っちゃおうかと。光らないツリーって寂しいでしょ」
というと、青島につつかれてくすぐったい顔をした。
「お、きれーじゃねーか」
「いいですなぁ・・」
ちょうど帰ってきた和久と魚住もツリーを見上げて呟く。
「真下さん、すごーい」
と雪乃に笑顔で言われて、満足そうな真下。
しばし一同でクリスマスツリーを囲むのだった。

そのツリーの点灯はクリスマスが過ぎるまで、毎晩行われるのであった。

[2000年12月20日(水)]

タクシーに揺られる青島と和久。
「ここんとこ昼間はあったかくていいな」
窓の外を見ながら和久が言う。
何も返事が返ってこないのでチラリと青島を見ると、反対側の車窓を眺めてむっつりしていた。
声をかけようと手を伸ばしかけるが、カーブにさしかかり車が大きく揺れたためその手はそのまま和久自身を支えることになった。
しばらくそのまま揺れていると
「この辺で止めてください」
とようやく青島が口を開いた。
タクシーは指示通り路肩に寄り、和久が最初に降りた。
「おぉ、こんくれぇあったけぇと腰にも・・・やっぱ痛いか・・」
と独り言と共に腰を叩くと、運賃を払い終えた青島がようやく降りてきた。
「何か怒ってんのか」
と和久。
青島はタクシーが走り去ったのを確認すると、怒って言った。
「今のタクシー、運転下手っすね。揺れる揺れる」
身体をフラフラとして見せる青島。
「何言ってんだ。おめぇの運転よか百万倍はマシだよ」
と和久はシラッと答える。
「おめぇの横に乗ってたらケツが椅子についてる時間の方がみじけーからな」
「そんなことないっしょ」
「なんだ、おめぇ自分の運転がどれだけかしらねーのか」
驚く和久。
「俺はいつも安全運転っすよ」
「なに言ってやがる。おめぇのが安全運転なら日本の交通事故は半分に減らぁ」
「ひどいなぁ、和久さぁん」
「ひどいのはおめぇの運転だ。悔い改めろ、ほら」
と指さした交番では、ちょうど警官が『本日までの交通事故車数』と書かれた掲示板の数字を一つ増やしているところであった。

[2000年12月12日(火)]

「あったかいねぇ」
とタバコの煙で輪を作っている青島の後ろ頭を和久が叩いた。
「いてっ」
頭を抱える青島。
「なに呆けてんだよ。仕事は山ほどあんだぞ」
和久は大量の書類を両手に持っている。
「あ、いや、すいません。外が寒かったからつい・・」
二人窓を見る。
ガラスはすっかりモヤがかかっているが、かろうじて向こう側が透けている部分でも風でチリや枯れ葉が飛んでいくのが見えた。
「あぁ、今日は今年一番の冷え込みだっつうからなぁ」
と和久は唸って書類を置き、腰を叩いた。
「いやもう寒かったすよ、ほんと」
よく見れば青島の鼻の頭も赤くなっている。
「こんな日でも事件は待ってくれないからなぁ」
と言うと
「たとえ事件が待ってくれても仕事は待ってくんねぇんだ。ほら、手伝え」
と自分の書類を半分渡す和久。
えぇっ、などと嫌がる青島だったが目の前の電話が鳴り、再びコートと鞄を無造作に抱えて飛び出ていった。
それを再び腰を叩きながらニッコリ見送る和久であった。

[2000年12月10日(日)]

「寒いっすね」
「さみぃなぁ」
歩く二人は青島と和久。
「天気予報は暖冬だって言ってましたけどねぇ」
「暖冬だって何だって冬はさみぃもんだ」
「そうっすけど」
と言った青島が自動販売機を見つけた。
「どうっすか。コーヒーでも」
指を指す。
「お、いいねぇ」
二人とも内ポケットに手を突っ込みながら自動販売機に近づく。
「あ、すんません。小銭が無くて和久さんのまで出せません」
青島が財布を覗き込んで言う。
「おめぇに出して貰おうなんて思っちゃいねぇよ」
和久が先に金を入れてボタンを押す。取り出し口がガチャンと音を立てた。
手を突っ込むと、アチアチと言いながらコーヒーを取り出した。
「あれ」
と青島。
「なんだぃ」
和久は珍しく自分で蓋を開けて飲んでいる。
「110円しかない・・・」
財布の中から二枚だけコインを出し、指でこすり合わせて見せる。
「しゃあねぇなぁ」
と和久が再び財布を取り出そうとすると、また青島。
「あれ」
今度は下を向いている。
「?」
和久もつられて下を向くと、あっと小さく声を上げた。
青島の足元に十円落ちている。青島の手が伸び、拾い上げる。
「おっ、ちょうどいいじゃねぇか」
和久が財布を戻そうとする。
「ダメっすよ」
慌ててその手を止める青島。
「刑事が拾得物横領しちゃダメっしょ」
「いいじゃねぇか、10円くらい」
「何言ってんすか。刑事でしょ」
「刑事じゃねーぞ。指導員だ」
「だったらなおさら」
「ったく、しょうがねぇなぁ」
和久はブツブツ言いながら自分の財布から10円取り出した。
「それでいいんですよ」
と青島が手を伸ばすと、それをひっこめる和久。
「なんで貸す方が怒られなきゃなんねぇんだ」

[2000年12月05日(火)]

「青島、お前も来るか」
一倉がそう声をかけたとき、偶々そばに立っていた袴田はヒッと悲鳴に似た声を上げた。
「え?」
当の青島はキョトンとしている。
袴田が飛び出た。
「い、いや、うちにはもっと優秀なのがいますから・・」
手がぱたぱたしている。
「そうだな」
青島の肩越しに刑事課内を見る一倉。
「まぁこっちは誰でもいいんだが・・」
と言いかけるとやっと事態を飲み込んだ青島が声を上げた。
「はい、僕が・・いや、私が伺わせていただきますです」
うしろのすみれに、日本語変よ、とつつかれる。
一倉は再度青島を見て、改まって言った。
「例の拳銃の入手先が分かった。密輸グループが潜伏していると思われるアパートへこれから強制捜査だ。うちの人間だけでは手が足りそうにないので、応援頼む。一人も逃がさないようにしてくれ」
それを聞いて敬礼をする青島。
「じゃ、青島君借りますがいいですね、課長」
と袴田に確認する一倉。
「はぁ・・」
頷く袴田。
「よし」
と歩き出した一倉の後ろを青島がコートを羽負いながらついていく。
後ろから袴田が
「頼むから無茶しないでくれよ。私も怒られるんだからな」
と声をかけたが、青島の耳には届かなかった。
その青島が一倉に訊く。
「いやぁ、びっくりしました。お声がかかるなんて。よっぽど人手不足なんすねぇ」
一倉は青島の方を見ずに答えた。
「それもあるんだが、室井がな」
「室井さん?」
突然出てきた名前に驚く青島。
「室井から連絡があってな、『青島がくすぶってるようだから暴れていいのなら捜査に合流させてやれ』ってな」
淡々と答える一倉。
「別に室井の命令を聞く義理はないんだが、確かに血の気が多いのがいた方が今回の場合はよさそうだからな」
「はは・・はは・・」
苦笑いする青島。
「『慎重を要する仕事だったら絶対にさせるな』とも言ってたぞ。信頼されてないんだな、お前」
「・・・」
苦笑いも出来ない青島。
「とりあえず今回はたっぷり暴れてくれ。絶対に逃がすなよ」
と言われ、青島は
「じゃあ、車まわします」
と一倉を追い越し勢いよく飛び出ていった。
一倉からは見えなかったが、久々の大仕事に嬉しそうな顔の青島であった。

[2000年12月04日(月)]

はぁっ、と青島が両手を自分の息で温めながら帰ってくると、
「お、刑事さん」
と声をかけられた。
見ると、寿司屋の親父である。
「どうしたんですか?」
青島が訊くと、ガハハと笑いながら寄ってきた。
「いや、今年もなぁ、忘年会を宜しくとか言ってきたんだよ」
と親父は親指で上の階を指しながら続けた。
「前にあんなことがあったろ。だからよ、ホントにちゃんとやんのか確認しに来たってわけよ」
再度ガハハと笑う。
「『青島がおかしなことをやらなきゃちゃんと開催される』って署長さん言ってたぞ。宜しく頼むよぉ」
と青島の腕をポンポンと叩いた。タジタジになる青島。
一度はそのまま去ろうとした親父だったが、振り返ると続けた。
「美香が淋しがってたぞ。今度食べに来なよ。腕によりをかけて握っからよ」
「あ、行きます行きます」
喜ぶ青島。
「ボーナス出たらおいで。ちっとはマケてやっからよ。じゃ」
というと、親父は再度高笑いしながら去っていった。
「・・・なんだ、奢りじゃないのか」
青島は苦笑いするのだった。

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